東京地方裁判所 平成10年(ワ)29370号 判決 1999年12月27日
原告
佐藤はる子
ほか三名
被告
深井明宏
ほか二名
主文
一 被告深井明宏及び被告福田直美は、原告らそれぞれに対し、連帯して四八八万九二五二円及びこれらに対する平成九年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告東京海上火災保険株式会社は、原告らの被告深井明宏及び被告福田直美に対する判決が確定したときは、原告らそれぞれに対し、四八八万九二五二円及びこれらに対する平成九年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の本件各請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。
五 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告深井明宏及び被告福田直美は、原告らそれぞれに対し、連帯して四二五〇万円及びこれらに対する平成九年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告東京海上火災保険株式会社は、原告らの被告深井明宏及び被告福田直美に対する判決が確定したときは、原告らそれぞれに対し、四二五〇万円及びこれらに対する平成九年八月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、後記交通事故により死亡した佐藤卯三郎(以下「卯三郎」という。)の相続人である原告らが、加害運転者である被告深井明宏(以下「被告深井」という。)に対し民法七〇九条に基づき、加害車の所有名義人である被告福田直美(以下「被告福田」という。)に対し自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告東京海上」という。)に対し自動車保険契約に基づき、右事故によって卯三郎及び原告らに生じた損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実、証拠〔乙第一、第二号証〕及び弁論の全趣旨により認める。)
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 事故の日時 平成九年七月三〇日午前一一時一五分ころ
(二) 事故の場所 千葉県流山市三輪野山八六二―二先路上(以下「本件事故現場」という。)
(三) 被告車 普通乗用自動車(名古屋七九ぬ一六〇一、運転者・被告深井、所有名義人・被告福田)
(四) 事故の態様 被告深井が、被告車を運転して、片側一車線の道路を走行中、卯三郎が自転車を運転して対向車線を走行してくるのを発見したが、減速することなく走行したため、中央線を越えて進行してきた卯三郎運転の自転車と衝突した(なお、事故の詳細については、後記のとおり当事者間に争いがある。)。これにより、卯三郎は、外傷性肺挫傷、左膝脛骨高原骨折、右肋骨骨折、右膝血腫、左手挫傷、前額部挫傷等の傷害を負い、平成九年八月一〇日、外傷性肺挫傷による呼吸不全により死亡した。
2 相続
(一) 卯三郎の死亡当時、原告佐藤はる子は卯三郎の妻、同林原洋子は卯三郎の長女、同佐藤幹雄は卯三郎の長男、同佐藤博次は卯三郎の次男であった。
(二) 原告らの間で、平成一〇年一二月一八日、卯三郎の本件損害賠償請求権を各自均等の割合で相続する旨の遺産分割協議が成立した。
3 損害のてん補
原告らは、均等の割合で、自動車賠償責任保険から二九〇万円のてん補を受けた。
4 責任原因
(一) 被告深井には、本件事故につき前記1(四)の過失が認められるから、民法七〇九条に基づき、卯三郎及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。
(二) 被告東京海上は、被告車について被告深井及び被告福田との間で自動車保険契約を締結しており、この保険契約に基づき、卯三郎及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任を負う。
二 争点1(被告福田の責任)
1 原告らの主張
被告福田は、本件事故当時、被告車の所有名義人であったから、自賠法三条の運行供用者としての責任を免れない。
2 被告らの主張
被告深井は、平成三年三月、姉である被告福田から被告車を譲り受け、以後これを自己の所有車として専ら使用し、同八年四月以降は自動車税及び車検時の費用も負担しており、単に所有名義の変更が未了の状態にあったにすぎない。したがって、被告福田は、本件事故当時、被告車の所有者ではなく、自賠法三条の運行供用者でもなかった。
三 争点2(過失相殺)
1 被告らの主張
本件事故現場の道路は幹線道路であって、車両の通行も少なくない道路である。卯三郎は、このような道路上を片手で傘をさし自転車に乗って通行中、中央線を越えて反対車線に進入し、時速五〇ないし六〇キロメートルの速度で走行していた被告深井の運転する被告車に衝突したものである。これらの事情を考えれば、卯三郎には少なくとも五〇パーセント以上の過失が存するものというべきである。
2 原告らの主張
被告深井は、一般道である本件事故現場付近において、高速道路並みの速度で徐行することなく被告車を疾走させ、卯三郎の運転する自転車に衝突させている。このような状況の下では、卯三郎に五〇パーセントを超える過失があるということはできない。
四 争点3(損害)
1 原告らの主張
(一) 積極損害 一〇〇〇万円
以下の葬儀関係費用を合計すると一三四〇万円となり、積極損害は一〇〇〇万円を下らない。
<1> 墓石 五〇〇万円
<2> 永代使用料 二一〇万円
<3> 戒名 一三〇万円
<4> 葬儀 約五〇〇万円
(二) 逸失利益 三〇〇〇万円
卯三郎の逸失利益は、次の(1)ないし(3)のとおり合計三一八〇万五四一七円となり、三〇〇〇万円を下らない。
(1) 厚生年金 七九六万八五一七円
卯三郎は、本件事故当時、厚生年金として一箇月当たり二九万五二九一円を受給していたが、本件事故後は一箇月当たり一七万五八九一円の遺族厚生年金に変更された。その差額は一箇月当たり一 一万九四〇〇円である。
卯三郎は、本件事故当時七七歳であったが、健康状態が極めて良好であったことからすると、あと一〇年間(ホフマン係数は、七・九四五)厚生年金を受給できたはずである。仮にそうでないとしても、平成七年簡易生命表によれば、七七歳男性の平均余命は八・六七年であるから、卯三郎は少なくとも八・六七年間は厚生年金を受給できたはずである。
したがって、卯三郎は、以下のとおり、七九六万八五一七円の厚生年金を本件事故によって受給できなかったものというべきである(生活費控除率三〇パーセント)。
11万9400円×12×(1-0.3)×7.945=796万8517円
(2) 役員報酬 一三八三万六九〇〇円
卯三郎は、本件事故当時、原告佐藤幹雄の経営に係る有限会社マネックス総合研究所の取締役として一箇月当たり二五万円に相当する仕事をしており、少なくともあと八年間(ホフマン係数は、六・五八九)は就業可能であった。
したがって、卯三郎は、以下のとおり、一三八三万六九〇〇円の役員報酬を本件事故によって受給できなかったものというべきである(生活費控除率三〇パーセント)。
25万円×12×(1-0.3)×6.589=1383万6900円
(3) 退職慰労金及び弔慰金 一〇〇〇万円
右(2)を前提に、有限会社マネックス総合研究所の役員退職慰労金規程(甲第三号証の1)三条(在任期間一四年、役位倍率二・五倍)及び五条(特別功労金三〇パーセント加算)に基づいて、卯三郎の退職慰労金及び弔慰金を計算すると、次のとおりとなり(金利三パーセント)、一〇〇〇万円を下らない。
(25万円×14×2.5×1.3+25万円×6)÷(1.03×1.03×1.03×1.03×1.03×1.03×1.03×1.03)=1016万3644円
(三) 慰謝料 一億二〇〇〇万円
卯三郎は、死亡するまで家族の精神的支柱として活躍し、健康上も何ら問題がなかった。このような卯三郎の突然の死による原告らの精神的苦痛は甚大である。
また、卯三郎の死亡の原因は、被告車が一般道路において高速道路並みの速度で徐行することなく衝突したという被告車の一方的重過失によるものである。
さらに、被告深井は、本件事故後の原告らとの交渉過程においても全く誠意を見せておらず、このような被告深井の態度によって原告らの精神的苦痛の程度は日増しに高くなっている。
このような卯三郎及び原告らの精神的苦痛を金銭に評価すれば、少なくとも合計一億二〇〇〇万円を下回ることはない。
(四) 弁護士費用 一〇〇〇万円
原告らは、弁護士に依頼して本件訴訟の提起を余儀なくされ、その費用としては、着手金及び報酬を合計すると少なくとも一〇〇〇万円とするのが相当である。
(五) 各原告の請求権 四二五〇万円
原告らの間では卯三郎の本件損害賠償請求権を各自均等の割合で相続する旨の遺産分割協議が成立しているから、原告らは、損害総額一億七〇〇〇万円について、次のとおり、一人当たり四二五〇万円の損害賠償請求権を有する。
1億7000万円÷4=4250万円
2 被告らの主張
(一) 積極損害
いずれも知らない。
なお、仮に原告ら主張の費用が支出されていたとしても、全額が本件事故と相当因果関係のある損害ということはできない。
(二) 逸失利益
厚生年金の受給状況、稼働状況、退職金の支給予定等は、いすれも知らない。
仮に、卯三郎が有限会社マネックス総合研究所の名目上の役員にすぎなかったとすれば、卯三郎が同社から何らかの金銭の支給を受けていたとしても、就労の対価とはいえないから、本件事故による損害賠償の対象とはならない。
(三) 慰謝料
卯三郎の死亡により原告らが精神的な打撃、苦痛を受けたことは認めるが、原告らの請求する慰謝料額は、現在の賠償基準に照らして余りにも過大である。
(四) 弁護士費用
知らない。
第三当裁判所の判断
一 争点1(被告福田の責任)
1 証拠(乙第二、第三号証、被告深井)及び弁論の全趣旨によれば、被告福田は、昭和六三年ころ、被告車を新車で購入し、通勤等のためこれを使用していたこと、被告福田は、平成二年に結婚した後は、被告車を名古屋市内の実家に預けていたこと、被告福田の弟である被告深井は、同三年二月ころ普通自動車免許を取得し、同年三月ころ、大学入学に伴い被告車を右実家から千葉県野田市内に移し、その後継続してこれを使用していたこと、自動車税及び車検時の費用については、当初被告福田が負担していたものの、同被告が結婚した後は被告深井の父である深井明が負担していたこと、被告深井は、大学を卒業した同八年四月以降は、父である深井明に現金を交付して同人に自動車税の支払を依頼していたこと、被告福田は、本件事故前には被告深井に対して所有名義の変更手続をするように申し入れたことがなかったこと、被告福田は、本件事故後、被告深井に対して所有名義の変更手続をするように申し入れたこともあったが、被告深井がこれに応じなかったため、この現状を黙認し、現在も被告福田が所有名義人となっていることなどが認められる。
2 以上の事実関係にかんがみれば、被告福田は、被告車の使用及び運行に対して事実上支配、管理を及ぼすことが可能であり、社会通念上その運行が社会に対して害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったものというべきであるから、本件事故により原告らに生じた損害につき、自賠法三条の運行供用者としての責任を免れない。
二 争点2(過失相殺)
1 本件事故の態様
(一) 証拠(乙第一及び第三号証、被告深井)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の態様は以下のとおりであったことが認められる。
(1) 本件事故現場は、片側一車線の直線道路であり、歩車道はガードパイプによって仕切られ、車道は幅一〇メートルで、その中央部分がセンターラインで区切られ、最高速度が時速五〇キロメートルに制限されている。なお、本件事故当時は、雨がしとしと降っており、路面が湿潤している状態であったが、視界は良好であった。
(2) 被告深井は、被告車を運転し、千葉県野田市内の自宅から同県松戸市内の職場に向かう途中、時速約五〇ないし六〇キロメートルの速度で本件事故現場にさしかかった。その際、被告車の前を走っている車はなかった。
(3) 被告深井は、卯三郎が、進行方向の右前方から、対向車線のガードパイプ側の白線付近を、片手で黒い傘をさし、片手ハンドルで走行してくるのを発見した。このときの被告車と卯三郎との間の距離は、約五七・五メートルであった。このとき、卯三郎はふらふらと走行しており、被告深井はこの様子を見て漠然とした危険を感じたが、そのまま被告車を走行させた。
(4) 被告深井は、その後、卯三郎がセンターラインに向かって斜めに進行してきたことから、こころもち進行方向左側のガードパイプの方に寄って、同じ速度で被告車を走行させた。ところが、卯三郎がセンターラインを越えて進行してきたため、被告深井は、卯三郎と衝突する危険を感じた。このときの被告車と卯三郎との距離は約一六・七メートルであった。
(5) 被告深井は、ブレーキペダルに足をかけたが、ペダルを踏み込むと同時に、被告車の右前方のヘッドライト付近が卯三郎の自転車の前輪の中央付近に衝突し、卯三郎は被告車のボンネットの上に乗り、運転席前のフロントガラスに衝突して跳ね上がり、被告車が卯三郎の下を通過する形となり、被告車は約一五・七メートル先へ進んで停止した。
(二) なお、原告らは、被告車が高速道路並みの速度で徐行することなく卯三郎運転の自転車に衝突した旨主張する。しかし、本件事故当時は雨が降っており路面が湿潤している状態であったにもかかわらず、被告車が衝突地点から約一五・七メートルの地点で停車していること、卯三郎が死亡したのは本件事故発生から一一日後であること、被告車の右前部ヘッドライト付近及びボンネットの損傷の程度は比較的軽いこと(甲第八号証の29ないし46、乙第一号証。なお、被告車のフロントガラスが破損しているが、これは雨天のため作動していたワイパーに卯三郎が衝突し、フロントガラスに右ワイパーが押し付けられたことによるものと推認される。)及び卯三郎運転の自転車はその前輪部付近がわずかに損傷を受けているにすぎないこと(甲第八号証の1、2、乙第一号証)などに照らせば、被告車が高速道路並みのスピードで卯三郎と衝突したということはできず、原告らの右主張は採用することができない。
2 過失割合
(一) 被告深井は、視界の良好な直線道路を進行中、卯三郎が対向車線を自転車に乗ってふらふらと走行し、その後センターラインに向かって斜めに進行してくるのを発見していたから、被告車を減速させたり警笛を鳴らすなどして、卯三郎の進行に十分注意して進行すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、被告車を時速五〇ないし六〇キロメートルの速度で漫然と進行させ、卯三郎に衝突させたものであって、被告深井に過失があることは明らかである。
(二) 他方、卯三郎は、車道の左側端に寄って安全に自転車を走行させるべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、車両の通行も少なくない本件事故現場付近の道路上を、片手で黒色の傘をさして、片手ハンドルで自転車に乗って走行していたところ、センターラインを越えて被告車の進行していた反対車線に進入し、被告車と衝突したから、卯三郎にも過失があったものというべきである。
(三) そして、被告深井と卯三郎の右過失を対比すると、両者の過失割合は七対三とするのが相当である。したがって、被告深井は、本件事故により原告らに生じた損害を、右の過失割合に基づいて賠償すべき責任がある。
三 争点3(損害)
1 積極損害 一五〇万円
(1) 原告らは、卯三郎の葬儀関係費用として支出した合計約一三四〇万円のうち少なくとも一〇〇〇万円は本件事故による損害である旨主張する。
(2) そして、証拠(甲第四号証の1ないし8)によれば、原告らは、卯三郎の墓石建立費、戒名料、入檀志納金、葬儀代金として一〇〇〇万円以上を支出したことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある葬儀関係費用としては、一五〇万円とするのが相当である。
2 逸失利益 八一五万二八七一円
(一) 厚生年金 六一一万〇四三三円
(1) 証拠(甲第二号証の1及び2)によれば、卯三郎は、本件事故当時、厚生年金として一箇月当たり二九万五二九一円を受給していたが、本件事故後は一箇月当たり一七万五八九一円の遺族厚生年金に変更されたこと、その差額は一箇月当たり一一万九四〇〇円であることが認められる。
(2) また、卯三郎は、本件事故当時七七歳であり、その平均余命は九年(ライプニッツ係数は、七・一〇七八)とするのが相当である(平成九年簡易生命表)。
原告らは、卯三郎の健康状態が極めて良好であったことを理由に、あと一〇年間は厚生年金を受給できた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって、卯三郎が得べかりし厚生年金は、次のとおり、六一一万〇四三三円となる(生活費控除率四〇パーセント)。
11万9400円×12×(1-0.4)×7.1078=611万0433円
(二) 役員報酬 二〇四万二四三八円
(1) 証拠(甲第三号証の3、第五号証の1ないし4、第六号証の1ないし4、第九号証)及び弁論の全趣旨によれば、卯三郎は、本件事故当時、有限会社マネックス総合研究所の取締役として、領収書、伝票等の整理を行い、一箇月当たり八万円の報酬を受領していたこと、卯三郎が本件事故当時七七歳であったことが認められ、これによれば、卯三郎の就業可能年数は四年(ライプニッツ係数は三・五四五九)とするのが相当である。なお、卯三郎が平成二年から本件事故当時まで一箇月当たり八万円の報酬しか得ていなかったことは、原告らが自認するところである。
(2) したがって、卯三郎が得べかりし役員報酬は、次のとおり、二〇四万二四三八円となる(生活費控除率四〇パーセント)。
8万円×12×(1-0.4)×3.5459=204万2438円
(三) 退職慰労金及び弔慰金 〇円
(1) 原告らは、卯三郎が本件事故により死亡しなかったならば、少なくとも一〇〇〇万円の退職慰労金及び弔慰金を受領できたはずである旨主張する。
(2) 証拠(甲第三号証の2及び3)及び弁論の全趣旨によれば、卯三郎は、平成二年一二月ころから有限会社マネックス総合研究所の取締役に就任していたこと、原告らは、本件事故後、右会社から卯三郎の退職慰労金として合計一四四万円、弔慰金として四八万円を受領したことが認められる。
(3) ところで、有限会社の取締役が会社に対し退職慰労金等の請求権を取得するためには、有限会社の定款又は株主総会の決議においてその額が定められていなければならないから(有限会社法三二条、商法二六九条)、在任中に事故により死亡した取締役が有限会社に対して請求することのできる退職慰労金等をもって右事故と相当因果関係のある損害というためには、右の点について事故当時において右定款又は株主総会の決議があったことを要するものというべきである。
(4) しかしながら、本件事故当時、有限会社マネックス総合研究所において取締役に支給すべき退職慰労金等について定款の定め又は株主総会の決議があったと認めるに足りる証拠はなく、有限会社マネックス総合研究所の役員退職慰労金規程(甲第三号証の1)は、本件事故から約一年半以上も経過した後である平成一一年春ころに作成されたものであること(甲第九号証、弁論の全趣旨)に照らせば、右規程によって算出された卯三郎の退職慰労金が本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできないから、原告らの前記主張は採用することができない。
3 慰謝料 二〇〇〇万円
卯三郎は、本件事故当時七七歳であったことなどに照らすと、卯三郎及び原告らの慰謝料としては、合計二〇〇〇万円が相当である。
4 小計 二九六五万二八七一円
5 過失相殺と既払金の控除 一七八五万七〇〇九円
前記二の過失割合に従って、右の損害額から三割を減額すると、残額は二〇七五万七〇〇九円となり、てん補額(二九〇万円)を控除すると、一七八五万七〇〇九円となる。
6 弁護士費用 一七〇万円
原告らが本件訴訟の提起、遂行を原告ら代理人に委任したことは、当裁判所に顕著な事実であり、本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他の諸事情にかんがみれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、一七〇万円とするのが相当である。
7 総計 一九五五万七〇〇九円
8 各原告の請求権 四八八万九二五二円
原告らの間では卯三郎の本件損害賠償請求権を各自均等の割合で相続する旨の遺産分割協議が成立しているから、原告らは、次のとおり、一人当たり四八八万九二五二円の損害賠償請求権を有する。
1955万7009円÷4=488万9252円
第四結論
よって、原告らの請求は、(一)被告深井及び被告福田に対し、連帯して、それぞれ四八八万九二五二円及びこれらに対する本件不法行為の日の後である平成九年八月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、(二)被告東京海上に対し、原告らの被告深井及び被告福田に対する判決が確定したときは、それぞれ四八八万九二五二円及びこれらに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、(三)その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 井上繁規 馬場純夫 大森直哉)